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日本センチュリー交響楽団 楽員ブログ

ショスタコービッチによせて

今回のプログラムにあるショスタコーヴィッチの交響曲11番は、沼尻さんにとって特別な思い入れのある曲とうかがっています。10年ほど前、チェリストのロストロポーヴィッチ氏と、前半は氏のソロと沼尻さんの指揮でチェロ協奏曲第1番、後半はロストロポーヴィッチ氏が交響曲第11番という演奏会があったそうで、その間沼尻さんはロストロポーヴィッチ氏とともに行動し、ショスタコーヴィッチのいろいろな話を聞く機会があったそうです。

そのつながりで、ショスタコーヴィッチについてブログに載せる原稿をチェロの首席奏者の林さんにお願いしてみたところ、ショスタコーヴィッチと親交の深かったチェリスト、ロストロポーヴィッチとの回想記をいただくことになりました。同じチェロ弾きとしても、とても興味深い内容でしたので、いつものリハーサル日記とは違う趣ですが、どうぞお楽しみください。M.S

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「ロストロポーヴィッチの思い出」 チェリスト 林 俊昭

私の宝物のひとつに、ある演奏会のプログラムがあります。それはM。ロストロポーヴィッチの1965年日本ツアーのもので、そこには彼のサインが二つ書かれています。

ひとつは1965年のもので、当時私は14歳、東京ユースシンフォニーオーケストラのチェロのトップを弾いていました。そのオーケストラがソビエト連邦大使館で演奏した時、来日中のロストロポーヴィッチが聴きに来ていたのです。当時私はとても小さくて、きっと10歳以下に見えたものかもしれませんが、どういうわけか私のことをとても気に入ってくれて、リサイタルとコンチェルト・リサイタルの2公演の招待状を直接下さったのです!

39歳のロストロポーヴィッチはチェロの怪物としか思えませんでした。心に直接訴える音楽性、完璧なテクニック、スケールの大きさ、ピアニッシモからフォルテッシモまでの音量の差の見事なこと等々、誰もが感動してしまうすごい演奏でした。

その連日のリサイタル、コンチェルト・リサイタル(一晩に3曲ものコンチェルト)の間に彼からサン・サーンスのチェロコンチェルトをユースオーケストラと一緒に弾きたいと申し出があったのです!急遽、みな必死で練習をしてNHKのFMで放送しました。ユースオーケストラのリハーサル中には弾きながら奥さんとずーっと喋ってばかり、それでも完璧に弾いていたのですから超人としかいえません。
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もうひとつのサインは、2005年の第3回1000人チェロの指揮者として来日したときのものです。この時私はコンサートマスターをしていました。公演後、運良く2時間位彼と個人的に話ができました。

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その折、40年前の話をした所、思い出したような表情で喜んでサインをしてくれたのです。彼の目の前にいるのが、あのときの14歳の少年だと理解できたのかどうかは分かりませんが・・・・。



そしてもうひとつ、私が今まで一番嬉しかったことを教えてくださいと尋ねたところ、ショスタコーヴィッチのチェロコンチェルト第一番の思い出を語ってくれました。

1959年にショスタコーヴィッチはロストロポーヴィッチの為にこのコンチェルトを作曲しました。4日後に聴かせてほしいと手書きの譜面を渡されて、ロストロポーヴィッチはその間に全曲オーケストラパートも含めて暗譜してショスタコーヴィッチの前に現れました。
ショスタコーヴィッチは譜面台を持ってきてロストロポーヴィッチの前に置いて、組み立てようとしましたが、ロストロポーヴィッチはそれを制して、暗譜で全曲弾ききったそうです。弾き終えた後ショスタコーヴィッチはロストロポーヴィッチを抱擁、涙まで浮かべていたそうです。

ロストロポーヴィッチ32歳の時です。

その彼も2年前天国に行ってしまいました。20世紀後半のチェロの巨匠はもういません。でも私の心の中には素晴らしい思い出を残してくれました。
by century_osaka | 2009-06-15 21:53 | リハーサル日記
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